差押えがついたままの建物の取り壊し
手続上だけで考えれば、差押えがついたまま、あるいは抵当権がついたままの建物を取り壊し、滅失登記を行うことはできる。
これは取り壊したという事実に基づいて登記をおこなうという報告的登記義務に根拠があるのですが、実際に、これにもとづいて差押えした債権者、担保を付けた債権者の同意なしに行うと、契約違反に該当し債権者から訴訟をおこされることがあります。
銀行取引約定では、
乙に提供されている担保について乙の責めに帰すことのできない事
由により毀損、滅失または価値の減少が生じたとき、甲または甲の保
証人の資産信用状態が悪化したとき等、乙の債権保全を必要とす
る相当の事由が生じたと客観的に認められる場合において、乙が相
当期間を定めて請求したときは、甲は乙の承認する担保もしくは増
担保を差し入れ、または保証人(電子記録保証人を含む。以下同
じ。)をたてもしくはこれを追加するものとします。
といった規定が記載されていて、これらによって
契約違反を指摘されるのです。
したがって実際上は、差押えがついたまま、あるいは担保がついたままの建物を取り壊し
滅失登記をするときは事前に同意が必要となる。
ところが、だいぶ昔に差押えされていたり、担保設定されていたりで、
債権者の所在がわからず、そもそもその債務があるかどうかもわからない
こともあります。
こんな場合はやっかいなことになりかねません。
差押えは解決したらすぐに解除してもらい、担保は担保債務がなくなったら
必ず抹消することです。
地方税滞納でおこること3 資産調査

このキャプチャー画像は税務署の照会書で、取引関係用のものです。
税金滞納者の取引先との債権・債務の状況を調べるもので、回収のため下調べをするものです。
これと同じような書類は銀行の支店には、毎日何通も郵送されています。
もちろん、税務署だけでなく、市役所なども銀行の支店に郵送しており、銀行支店によってはこれらへの回答するための事務量が増えすぎて専門の部署を設けたところもあるくらいです。
これらの書面とは別に銀行には常駐しているかのように、税務署員・役所の徴収職員が狙った滞納者、あるいは脱税の疑いのある方の預金の動きを時系列でチェックしています。私も支店にいるときはしょっちゅうお目にかかりましたし、銀行支店内の特別の部屋で国税の方々が何日も常駐して預金の動きを調べているのを経験しています。
ところで、滞納者がどこ銀行のどこの支店に預金があるかわからないだろうと思う方もいるかもしれませんが、法人であれば決算書の預貯金等の内訳書でどこに預金があるかはすぐにわかります。法人住民税・固定資産税が滞納した場合などの資産調査は徴収主体である市町村等が行いますが、管轄の税務署で決算書を閲覧することで判明してしまいます。
ただし、地方税の滞納で本社が福岡、仙台で支店登記されたところでの住民税の滞納などの場合てまひまがかかりますが。
ただ理解していただきたいのは、調べようと思えば税務署ならかなりのことが調べられますし、市役所などでも時間と人員がいさえすれば何とでもなるということです
彼らが情報を把握できるのは預金、不動産のみならず、売掛金、固定資産などがかなりの精度で調べることができます。
償却資産税という地方税がありますが、その内容を照会することで固定資産の現状も把握できてしまうのです。
結果として、わからないだろうと思われる資産もいくらでもあぶりだすことができます。では、これらをわからないようにするにはどうしたらいいのか? と思う人もいて当然ですがネット上で書く話題ではないので……。
地方税滞納でおこること2
会社が税金の納付を滞納した場合、どうなっていくかは、国税と地方税で行われることは同じですが、徴収する側が国か地方自治体かによってかなりの違いがでてきます。それは、その情報収集力の違いに起因するものですが、今回は地方税の滞納で起こることについて書いてみます。
まずは、法的根拠と
滞納処分の流れについて復習です。
1、地方税、納付期限経過しても未納 → 滞納処分開始
2、納付期限から20日以内に滞納者に督促状発送
3、滞納者の財産を調査開始 国税徴収法141条
4、督促状発送から数えて10日以内に納付できない場合は、滞納者の財産差押え
地方税法第331条第1項
5、差押えた財産を換価したり、銀行預金などは銀行から取立たりして回収する
国税徴収法94条、67条1項
これを実際の運用例で示すとこのようになる(この図は、滞納者と市役所などで、話し合いが行われ、納付していったとしても完納には数年の時間を要する場合、あるいは、滞納者が話し合いと納付をしない場合で書いています)
第九十四条 税務署長は、差押財産等を換価するときは、これを公売に付さなければならない。
2 公売は、入札又は競り売りの方法により行わなければならない。
地方税の滞納でおこること、その1(会社の場合)
会社が地方税を滞納した場合、どんなことがおこるのかという、市役所などからの督促の手紙、電話などがある。
そして、納付しないでいると呼び出しの連絡がある。そこで、会社の現状や預金口座、不動産について確認される。
それでも納付しなければ、会社所有の不動産が差押される。これは、不動産に時価余力があろうとなかろうとなされるもので、銀行の根抵当権が設定されていて銀行融資残高がある場合などは、これによって新規融資の停止はもちろんのこと、借入金全額一括返済を銀行から要求されることもある。
また、役所による預金への差押もありえる。ただし、すぐに差押が行なわれるかというとそうではなく、1~2年以上経過で実行されることが多い。
仮に役所に呼び出しをされたときに偽りの証言をしても嘘はばれる。どうしてかというと、市役所の徴収担当者は所轄税務署で法人税の申告書一式を閲覧できるからだ。
どこの銀行のどこの支店に預金があり、融資はどこで行なわれているかはもちろんのこと、固定資産の明細などで資産を把握してしまうのだ。
また、市役所の徴収担当者には国税徴収法141条にもとづく質問検査権もあり、さまざまなことができてしまう。
さらに、 市役所の徴収担当者 は、上司に対する報告と、何をすれば滞納した税金を回収できるか考える必要があるため、滞納者との話の中でいやがることが何なのかを探ることになる。相手がいやがることをやれば回収につながるからだ。
それゆえに、これらにたいし会社としてどう対応すべきなのかについて何回かに分けて書いていこうと思う。
e-gov参照 国税徴収法141条
仕訳帳、元帳からわかる会社、オーナー社長の現状
金融機関が融資している取引先の決算書に疑いをもったり、
本来の財務内容を知る必要があるとき仕訳帳、元帳を精査することがある。
その会社が架空の経費を計上しているのでなければ、現金の元帳をみれば
どんな理由でどんなふうに資金が不足したのか分かる。
もっとも、架空の経費が計上されている場合は、その数字を考慮して
資金の動きを見る必要がある。
仕訳帳、元帳を見るのはそれだけにとどまらず、さまざまなことがわかるのも事実だ。
企業の再生を頼まれて、始めてみるその会社の決算書だけでは
財務が把握できず、仕訳帳、元帳もいっしょにいただくとその会社の実状がはっきりすることが
きわめて多い。
そこでチェックするのは不自然な取引ということになる。
下記の例の会社の場合、毎月同じ日に同じ仕訳がされていた。
この会社は家族経営で、財務内容が悪化していたのだが、
この仕訳では、9月10日に
〇〇債権回収への返済、
家族への貸付、
オーナー社長からの借入金への返済があったこととなっている。
1回だけならまだしも同様の3件の仕訳が毎月行なわれていたとすれば何だろうと思うのは
当然だと思う。
この資金の流れは必要だから行なわれるものであり、当然そこには切迫した資金の必要性
があるのだと感じた。
そこで推測してみた。
〇〇債権回収への返済は、会社が銀行借入を延滞し期限の利益喪失→債権譲渡されたものの返済。
家族への貸付は、その家族従業員が税金、たぶん固定資産税を滞納し会社がこのような資金の流れで代わりに
納付しているもの、しかもその固定資産は会社が使っている資産。
オーナー社長からの借入金への返済は、やはりオーナー社長が滞納した税金の
支払をこの資金の流れでオーナー社長の収入にせずにおこなっているもの。
この推測を言うと、ずばり的中していた。
じっさい
仕訳帳、元帳からさまざまなことがわかるのだ。
DESの使い方は慎重に
DESはDebt Equity Swapの略で、会社の債務を株式に転換することだが、
この使い方には注意がいる。
どんなときのためにDESを使うかと言うと
まず、(1)財務内容をよく見せたいとき
そして、(2)オーナー社長から会社への貸付金が大きいとき、貸付金を株式にすることで
個人の相続財産を減らし、事業承継者である相続人に承継させやすくするため
(もちろん株式の評価額や持ち株の譲渡などは事前に対策するとして)
の2つが多いと思う。
日本経営合理化協会のコラムに詳しく書いたので掲載されたらそちらをお読みいただきたいのだが、
前記(1)のケースが下記の図のBのB/Sで使われ、
(2)のケースがA、Bどちらでも使われる。もっともAのB/Sでは大幅な債務超過、大きな繰越損失をかかえている
ことが考えられるため誰も事業承継者にならず、オーナー社長の死亡時に相続放棄という可能性が大きいので
やはりBのB/Sでのみ使われると考えたほうがよい。
仮にAのB/SでDESを使うとすれば、オーナー社長の個人財産が何十億円であり、相続を見越した場合だが、
そんな例ではとっくにこの会社を清算しているはずなのでAのケースというのは考えずらい。
ところで、DESの使い方にはなぜ注意が必要かと言うと
DESによる債務免除益 → 税負担が発生するケースがあるからだ。
2016年にある会社でDESを考えた際、この税負担がネックになり
単純な増資 → 返済充当
したことがある。
オーナー社長から会社への貸付金1億円をDESで資本にしたとして、
そのうちの8,000万円が会社の資産や利益では回収できないものとされた場合、
会社にはその金額での債務免除益が生まれることとなり、繰越控除される欠損金および今期損失額がそれ以下なら
DESによる税負担が発生することになるのです。
それゆえにDESの扱いは税理士と相談のうえ慎重に扱うことが必要です。
根抵当権設定、既存根抵当権極度増額で無剰余にすれば不動産は守れるのか?
根抵当権設定、既存根抵当権極度増額で無剰余にすれば不動産は守れるのか?
今でもこんな質問をされることがある。
答えは「守れるときもあれば、守れないときもある」になる。
役所などの差押の場合、先順位の債権額がいくらかなどおかまいなしに差押をしてくる。
実際、このケースはきわめて多い。
「無益な差押え」は禁じれれているが、実務上は高松高裁の判決を理由に
比較的かんたんに差押えられてしまう。
もちろん無剰余であるため役所側は競売にはもちこまないが、役所の差押(多くは税金の滞納によるもの)を理由に
先順位の債権者が競売にしてしまう。
これを回避するためには先順位の債権者との交渉と、合意の上での債務の履行が必要となる。
先順位の債権者である銀行などは経済合理性で動くからここであきらめないほうがいい。
ただし、役所の差押も救済制度はあるものの機能しておらず、
早めに手立てをうったほうがいいことになる。
詳しくは日本経営合理化協会のホームページ「第66話 所有不動産に仮差押・差押をされたら…(3)」
に書いたことがあるので参考願いたい。
平成30年4月 事業承継税制改正は、ほんの一部の会社にしか役立たない
中小企業のうちその3割にあたる127万社で後継者が不在の状態という経済産業省の発表によって、
大廃業時代などと言われるようになった。
それらを阻止する目的で平成30年4月1日から事業承継税制が大きく変わった。
その内容を簡単に書くと、
中小企業であれば、一部を除いてその株式の贈与・相続にかかる税金が100%猶予されるというもの
ただし、期間内の「特例承認計画」を都道府県に提出→税務署への届出
や手続、さまざまな要件があり、これらをクリアして始めて
事業承継に係る株式の後継者への贈与・相続の税負担が実質0円として猶予される
くわしくは、国税庁の事業承継税制特集
あるいは、
【平成30年改正】事業承継税制とは? メリット・デメリットを解説します
で一読願いたいのですが、後藤孝典弁護士のこの↓
Youtube動画の説明がわかりやすいのでご覧いただきたい。
ちなみに後藤先生の著書
制度としてはとてもよくできたものだと思うが、
これを使って得するのは
黒字で資産超過の会社で、かつ銀行借入金の比率が小さい会社の事業承継となる。
事実上、よくて40~50社に1社、最悪500社に1社くらいしか使っても意味がない。
ここらへんの事情については 日本経営合理化協会のコラムに書いたのでご覧いただきたいが、
せっかくいい制度なのに、ほんの一握りの会社にしか使えず、とても残念な気がする。
アメリカの相続税の基礎控除の多さや、企業承継の優遇策なども見習って欲しいと思うのだが。
「平成30年4月1日から信用保証協会付融資制度が変更」の補足
企業再生とは直接関係ないですが、
平成30年4月1日から信用保証協会付融資制度が変更されています
という内容を書きましたが、具体的な金融機関側の対応を保証協会からの説明がされていないようです。
中小企業庁のHPに
2) 信用保証協会と金融機関の連携(詳細資料)(PDF形式:949KB)(平成29年10月31日更新)
というリンクがありご覧いただければわかるように、「中小企業の経営の状況に応じた、
保証付き融資とプロパー融資との適切なリスク分担」の事例で、
保証付き融資とプロパー融資の比率5:5の例が登場していますが、
今後は企業経営と融資銀行の関係性を見ながら、そのような判断・指導を適時にしていくものと思われます。
金融機関の担当者に確認するも、まだそのような例がなく
これからどうなるのかわからない様子でした。